メンタル

日頃から受け身の練習を

日頃から受け身の練習を

この記事でわかること

  • 受け身は衝撃を消す技ではなく、逃がす技だということ
  • 同じ強さの刺激でも、予測できるかどうかで体の反応が変わること
  • 朝のうちに「今日の嫌なこと」を一つ名指ししておく理由

⏱ 読了 約6分 / 🔬 根拠の信頼度: 中

月曜の朝、電車の中でスマホを見ながら、今日の会議で言われそうな一言をふと思い浮かべることってありませんか。実はこれ、けっこう理にかなった習慣かもしれません。柔道の受け身と同じ仕組みが、体の中でも起きているんです。

受け身とは「衝撃をゼロにする技」ではない

 

柔道の受け身って、投げられても痛くなくなる魔法みたいに思われがちです。でも本当は、衝撃をゼロにしているわけじゃありません。

「これから体が地面にぶつかる」とわかっているから、手のひらで畳を叩いて力を分散できる。首を守る姿勢を先に作れる。衝撃そのものは来るけど、体の準備ができているぶん、ダメージの散らばり方が変わるんです。

 

予期しておくことは、痛みを消す方法じゃなくて、痛みの受け止め方を変える方法です。これは体の反射を調べた研究でも、似たようなことが見えてきています。

予測できるショックと、できないショックの違い

 

羊を使った実験で、こんなことが確かめられています。音の合図のあとに必ず電気の刺激が来る、というパターンを覚えさせたグループと、自分の行動次第で刺激を避けられるグループを比べました。

刺激を避けられるグループは、ストレスホルモン(コルチゾール)の値も体温も、何もされていない羊とほとんど変わりませんでした。一方、刺激が必ず来ると分かっていても避けられないグループは、体温もストレスホルモンも上がり、うろうろと動き回る様子が増えたんです。

 

面白いのは、音だけで刺激が来なかったグループより、音のあと実際に刺激を受けたグループのほうがストレスが強かったこと。予測が当たって、実際に嫌なことが起きる瞬間には、それなりのコストがかかるということです。

つまり予期しておいても、衝撃そのものは消えません。

予期でゼロになるのは衝撃じゃなくて、反応の乱れ方です。

 

これがまず押さえておきたいところです。

脳は「知らないこと」に過剰反応する

 

まばたきの大きさで驚きの反応を測る調べ方があります。同じ音を聞かせても、まばたきの大きさには人によってかなり差が出ます。そして、不安を感じやすい人ほど、また音を不快だと感じた人ほど、まばたきが大きくなる傾向が見えています。

予測できない状況になると、この差はもっとはっきりします。次に何が来るか分からない条件では、生理的な反応の強さと、普段の不安の強さや「はっきりしないことへの苦手さ」との結びつきが強くなることが確かめられています。

 

脳の中では、音と嫌な刺激をセットで覚えさせると、扁桃体や海馬といった、警戒や記憶に関わる場所が反応します。ただしこの反応、繰り返すうちに素早く落ち着いていくことも分かっています。合図があることで、脳は「もう分かってるから、そんなに騒がなくていい」と早めに切り替えられるようなんです。

見えない敵は大きく見える、というのは比喩じゃなくて体の反応そのものなんです。

脳は「知らないこと」に過剰反応する

朝の一分でできる予期の練習

 

ここまでの話をまとめると、こうなります。予期しておくと、衝撃は消えないけど、反応の振れ幅は小さくできる。そして予測できないことのほうが、脳にとっては負担が大きい。

だったら、やることはシンプルです。

  1. 朝のうちに、今日起こりそうな小さな嫌なことを一つだけ選ぶ
  2. 「あの会議で、多分あの一言を言われる」と、できるだけ具体的に思い浮かべる
  3. それだけで終える。対策や言い返し方まで考え込まなくていい

ポイントは、完璧に備えることじゃありません。「来るかもしれない」を「来ることは知っている」に変えるだけで十分なんです。合図を先に自分に与えておくイメージです。

 

ただし、これで衝撃自体がなくなるとは思わないでください。予測できても避けられない出来事は、それなりに堪えます。それでも、何も知らずに不意打ちを食らうよりは、体の反応が落ち着きやすくなる。受け身と同じで、痛みをゼロにする技じゃなく、痛みの散らし方を変える技です。

予期しておく習慣は、嫌なことを消してくれるわけじゃありません。ただ、来ると分かっているものと、突然来るものとでは、体の受け止め方がまるで違います。朝の一分、今日の小さな嫌なことを一つ名指ししておく。それだけで、実際にそれが起きたときの自分が、少し軽くなります。

※ ここで紹介した実験は、女性のみを対象にしたもの、羊を使ったもの、自閉スペクトラム症の青年を対象にしたものなど、条件がそれぞれ異なります。日常のちょっとした嫌なことに、そのまま同じ強さで当てはまるとは限りません。あくまで「予期があると反応の振れ幅が変わりやすい」という傾向として読んでください。

出典: Frontiers in Behavioral Neuroscience · https://doi.org/10.3389/fnbeh.2015.00010
Molecular Autism · https://doi.org/10.1186/2040-2392-4-31
Frontiers in veterinary science · https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33330702/
Journal of Neuroscience · https://doi.org/10.1523/jneurosci.19-24-10869.1999

※医学的な診断・治療に代わるものではなく、効果には個人差があります。